ブーガンヴィル航海記補遺 |
ディドロ 読み終えて、思わず考え込んでしまう本はそうざらにはないでしょう。 この本は、文庫にして1センチほどの厚さしかありませんが、哲学が凝縮されています。 タイトルだけを見ると、大航海時代の冒険小説の印象ですが、それはまったく違うのです。 ブーガンヴィル(数学者、弁護士、軍人の経歴の持ち主)が残した探検旅行の記録を ディドロが補遺というかたちで書いたものです。 ブーガンヴィル隊は、タヒチの人々が住む島に到着します。 人々は人間や自然を愛し、のびのびと生活をしていましたが、ブーガンヴィル隊が 来ることで、その生活が徐々に変わっていきます。ブーガンヴィル隊がもたらした文明の 思想は彼らの歯車を狂わせることになったのです。 物語の大半をオルー(タヒチ)と従軍牧師(ブーガンヴィル隊)のやり取りに費やし、 人間とは、法とは、宗教とは一体何なのか、何の意味があるのかを考えさせます。 彼らの言論による対決は、いわば「自然」対「文明」の闘いでもあるのです。 読みすすめていくにしたがって、自分の頭の中で組み立ててあったものが、バラバラに 崩れてゆくような気がしました。これまで感じたことのない衝撃です。 書いてある内容もさることながら、小説の手法としても常に2人の人物を登場させて 会話のやり取りをさせるという書き方を多用しているため、そういったところではプラトンの 手法を学んでいるのかな、と勝手に思ってしまいました。 現在は絶版になっているようですが、古本ででも手に入れて、手元において置きたい1冊です。
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