『ろまん燈籠』 |
太宰 治 美術と同様、文学の世界にも技法があります。 いえ、「技法」というよりも、「構成」と言ったほうが適切なのかもしれません。 この『ろまん燈籠』は、5人の兄妹たちが1つの小説を作り上げてゆく、一風変わった構成を 持った小説です。 ある亡くなった洋画家には、5人の息子、娘たちがいました。 「まことは弱く、とても優しい」長男、「憂愁、寂寥の感を、ひそかに楽しむ」長女、 虚弱体質で皮肉屋の次男、ナルシストの次女、そして「おっちょこちょい」な末弟です。 みなに共通することは文学が好きなことと、「ロマンスが好き」なこと。 そうした共通点から、この兄妹たちは順々に物語を書き足していき、それで1つの小説を 作り上げるという変わった遊びをするのです。 最も大事な最初の書き手を引き受けたのは、なんとおっちょこちょいの末弟。苦心したのち、 なんとか筆を進める彼でしたが、書いていくうちにとんでもないミスを犯して…。 兄妹たちの個性的な性格が、文体や小説のすすめ方に強く反映されており、とても面白く 読むことができました。特に3番目の書き手を引き受けた次男は、夏目漱石ばりの文体で、 話が大きく横にそれていくのは熱があったから?思わず笑みがこぼれてしまいます。 話の内容はもちろん、先に挙げた構成力の点でも大変楽しめる小説です。 |