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弘法独鈷水<加園>

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 湯治客の中から、若い頃村相撲で横綱をはったことがあると、自慢して いた男が出てきた。
 「ハッケヨーイ、のこった!」
 行司の掛け声で組み合ったふたりとも強かった。投げ合い、押し合いが続き、勝負がつかないまま水が入った。作男が休んでいると
 「この水を飲めば強くなる。」
 土俵の下にいたお坊さんが、独鈷水を柄杓に汲んで出した。
 水を飲んで土俵に上がった作男は今度は相手を抱き上げると、一気に投げ飛ばしてしまった。
 この作男は酒好きだった。賞品にもらった酒を毎日、飲み明かしているところに、お坊さんが来て、
 「おい、この前言いつけておいた縄はできたか、明日使うのだ。」
 と、言った。作男は、
 「はあ、もう少しでやんす。」
 と答えたものの、内心あわてた。まだ、全然作っていないのだ。 縄は寺の屋根のふき替えに使うもので、もし、間に合わないと、とんでもないことになる。
 「明日の朝、かならず持ってこいよ。」
 と、言いながら出て行くお坊さんの後ろ姿を見て、作男はすっかり酔いが醒めてしまった。
なう縄は4,5日かからなければできないほど沢山ある。それを一晩で仕上げなければ ならないのだ。頭を抱えて考えこんでしまった作男は、ふと、独鈷水を思いついた。 さっそく家を出て、この水を飲んだ作男に、すばらしい考えと力が湧いてきた。 作男は家に帰ると、藁を屋根うらに山のように積み上げ、仕事を始めた。ない上げる 側から、屋根裏からひとりでにうずのように積み上がっていく縄は、まとめる手間が 省ける。いつもの倍も三倍もの速さで、ない上がっていく縄は、夜明けまでにすっかり出来上がってしまった。
 このように霊験あらたかな独鈷水の評判は、村から村へと広まっていった。
 現在も、合格祈願、習い事の上達、無病、長寿を願う人たちが、この水を求めて独鈷石神社に、遠く県外からも来る人が多いという。

 この内容は、鹿沼市上殿町にお住まいの”小杉義雄”さんが昭和51年に発行された 「子どものための鹿沼のむかし話」より抜粋させていただきました。

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