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おとみ坂の夜泣き石<象間>

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 ある年の田植えどきのことだった。家のまわりの田には青々とした苗がすっかり植えられ、常作を気ままに遊ばせるところが少なくなっていた。
 その日の常作は朝からきげんがわるかった。だが、
 「おとみ、あしたはさなぶり(田植えを終えた祝いの祭りのこと)だ。常作のおもりをしっかりたのむよ。」
 と、言われたおとみは、去年のさなぶりのことを思い出して、うきうきとしてきた。ごちそうも、思う存分食べられた。近所の子供たちとも、 一日中遊ぶこともできた。新しい着物も買ってもらったのだ。むずかる常作をつれだしたおとみは、
 「常坊、ほら、見て」
 と、かえるをつかまえ、石をけりながら、常作を遊ばせていた。きげんをとるのはたいへんだったが、心はあしたのことでいっぱいだった。 そのうち、いつしか、家も見えなくなるほど遠くへきてしまった。
 「おお、あっち、あっち。」
 常作の指さす坂道のわきに、すみれが山すそまで咲きひろがるところがあった。ここなら、常作を思うままに遊ばせることができる。
 ほっとしたおとみは、家の人から、そこは岩くずれがあって、あぶない。と、いわれていたことも忘れ、花をつみはじめた。常作はかえるを追い、ころがりまわって遊んでいる。
 「常坊、おいで。」
 花のかんざしを作り終えたおとみが呼んだ。その声に山すそで遊んでいた常作がふり向いたときだった。とつぜん、常作のうえに大きな岩がくずれ落ちてきた。
 「あぶない!」
 おとみが叫んだときは、おそかった。ひとかかえ以上もある岩はねらいをさだめたように、常作のうえにころがり落ちてきたのだ。
 「常坊!常坊!」
 かけよったおとみは、岩の下から常作を引き出そうとした。だが、十歳になったばなりのおとみには、どうすることもできなかった。
 常作はひっしに岩を押しうごかそうとするおとみに、ただ一言、

つづき