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久我・加園に係わるむかし話紹介

シリーズ第2話

弘法独鈷水(koubou dokkosui)<加園>

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 鹿沼市街より石裂への道を車でおよそ20分ほど行くと独鈷山といわれる小高い山が見えてくる。
 この山を左に見ながら、さらに進み荒井川にかかる見立橋を渡ると独鈷山の山ぎわに40数戸の家が点在する見立地区に出る。
 その山すそに、ふき出るように湧く泉がある。
 見立は昔から、水の便がわるく”大籠で、水くむか”と、言われるほど生活用水にもつらい思いをしてきた人々にとって、この水は、命の泉であった。
 この水を土地を人々は、弘法独鈷水といい、次のようなことがいい伝えられている。
 いまから千百年あまりむかしのことである。ひとりの男が真夏の太陽が照りつける山肌を耕していた。 男は日の出前から働いていたが、石ころだらけの山土である、昼を過ぎても仕事ははかどらない。
 「こんなところに畑を作ったって何もできやしねえのに・・・・ああ、もう、からっぽか。」
 男はぶつぶついいながら、竹筒からしたたり落ちるしずくも残さずに飲み干した。
 水はなくなるたびに山を下りてくんでくる。仕事の途中で山を登り下りするのもひと苦労だ。それに、今日はなん回も水をくみに下りている。
 「さーてと。」 ひと休みした男が、仕事を始めようとした時である。やぶをかき分けて、山を下りて くるものがいた。ぎくっとして身構えた男の前に、疲れきったようすのお坊さんがあらわれた。
 「おらあ、クマかと思ってたまげたで・・・・・・・ところで、ついぞ見たこともないお坊さんだが・・・」
 男は、ほっとして話しかけた。
 「わしは国々をめぐり歩いている僧でござる。申し訳ないが、一杯の水をくださらんか。」
 お坊さんは男が掘り起こした大きな石に腰をおろしながらいった。
 「みず、水だって!ほら、たった今、飲んでしまったで。だが、あそこまで下りて行けば、 たんと飲めるで。」
 男は、空になった竹筒を振って見せながら、はるか下を流れる川を指さした。
 「それじゃあ・・・・・」
 けだるそうに腰を上げたお坊さんはふらつくように歩き出した。

つづき