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12月号

  朝
         相場栄子

午前五時
レースのカーテンが
うっすら白くなってくる
そばから聞こえる
寝息に目覚め
そっと早起きをする

朝の静けさに身をおき
贅沢な空間を独り占めし
ゆっくりと珈琲を味わう

窓を開けると新しい空気
躰に優しい微風となって
私を包んでくれる
この清々しさを
こころに入れたくて
大きく深呼吸をする

11月号

  同級会
         金子タケコ

 まめのき マメのキ
 豆のき 豆の木
 称えて探しまわるうちに
 スカイツリーのような
 「ジャックと豆の木」に
 なっていたのだ
  
 ターミナル近くの
 案内所に聞けば呆れ顔
 集合場所は
 金属製のシルバーに輝く
 小さな木のオブジェのある
 すぐ目の前の広場だった

 卒業以来六〇有余年
 夢尽きることのない
 あのころに花を咲かせ
 またの出会いを願いつつ
 やがて帰路につくころ
 
 ありがたい恩師は
 痛々しく細身の
 大山人のようで
 懐かしい乙女たちは
 やさしい山姥のようで
 
 

 

10月号

   朝の風
        柿沼道子
 娘時代は戦争中
 こんな年寄りになりました
 早起きしておひさまに
 つかえているものは吐きだし
 食ぺたいものは食ベておこう
 会いたい人には会っておこう
 もっと考えてにっこり一休み
 家の仕事少々
 あした死んでも
 百歳まで生きてもいいように
 少々の貯金
 
 通り抜けて行く風
 強くなったり弱くなったり
 元気な風を
 誰も見てはいないが
 落ちている木の葉でわかる

 

9月号

 あめあめたまげて
          大川 勝
山々は黒ずみ
トマトは赤らみ
葱も大根も太くなり
紫陽花が咲き乱れるころ
 たまげて私は退院できた
夕暮れには必ず
雨が降ってきて
雨蛙が鳴き出し
田圃の水が溢れだし
蛇がたまげて木にのぼり
小鳥がたまげて飛びまわり
ホタルがたまげて舞い踊る
 生まれてこのかた
 梅雨のあめあめ
 喜ぶように 
            守城選

8月号

  漂流郵便局
           宮本千乃
瀬戸内に不思議な
郵便局があるという
漂流郵便局
ゆくあてのない手紙が届く
想いを預かるところ

背中の荷物は下せない
胸に仕舞っておくしかない
重かった荷物 切ない想いを
誰かに話したいとき
相手は空や風がいい
返事のない音信
それでも 悲しみを煮詰め
希望へと変わってゆく

想いを届けるところが
漂流郵便局ならば
私も手紙を書こう
私から私への手紙を
       (守城選)

7月号

  冬の組曲
            小林守城
おまえが生まれて
数日たった穏やかな日
冬の青空に
バッハがながれる
組曲第二番ロ短調が
麗しくひびいていた

青空はバッハッハー
おまえのふるさと
おまえの辿りゆく
まだなにも知らない
なつかしい天空の音楽

モーツァルトの ひあい
ベートーベンの くのう
シューベルトの なげき
まだなにも始まらない
そのままバッハの組曲

6月号

  西大芦の里よ
           田村右品
 
大芦川沿いの山間の里よ

東大芦川の源流
大滝から
道陸神峠に向かい
芒かいくぐり
心の友と這い登り
小石を積み上げて
訪れる風の声に祈った

道なき峠からは
かつて
足尾への索道があった

5月号

  D・ショット
         大川 勝
雪まじりの四月
認知症のおまえは
朝になって 霊柩車で
救急病院から還ってきた

そして ぼう然として通夜
久しぶりに美しく透き通った
おまえのそばで寝た
そして ひと月前に呟いた
おまえの言葉を思い浮かべていた

 ゴルフに行きたい

佐貫観音岩の見える
杉の郷CCで
わたしたちはあのころ
萌黄色を貫いて
D・ショットを
打ち込んでいたのだった

4月号

  縁結び
           守城

水芭蕉が群生している
腐れ湿地に結縁している

なにはともあれの縁を
人の世の腐れ縁という
身の程知らず
政治家は
とっくに辞めて

お望みなら声高に
詩は一時放り投げ
こちらから先に切ろう

腐れ縁とは柵を
何とか絆に結び返すため
その痛ましい切っ先を
なんとか宥めてきた
おれの言葉だ

3月号

  寒ざらし
           相場栄子
秋に収穫した蕎麦の実を
厳冬期 
冷水に浸し乾燥させる

強い寒さのストレスを受け
蕎麦のいのちに
防御反応が生じるという

余分な灰汁や
えぐみを取り除き
甘味が加わり風味を増す
その熟成への工程

「寒ざらしの蕎麦」の
仕込み作業に
わたしはいま
母の歩んだ人生の
影を視ている
         (守城選)

2月号 

  虹の橋
        大川 勝
夕焼けの空に
虹がかかったんだよ
ウンと言うだけの妻
写真にとる余裕は
なかったけんど

往復する病院と自宅
デイサービスと自宅
あとは毎日部屋にこもる
憂鬱な曇り雨の毎日に
ほら 夕焼けに虹が
かかったんだよ

虹の橋からは東に筑波山
少し右にスカイツリー
西には真白な裸の富士山
目の前には ほら
手が届く男体山

 
2015年
1月号 
 

  大越路峠
             田村右品
 野の仏探し求めて
 友とたずねた大越路
 風が吹くよ 吹き抜ける
 風が呼ぶよ 亡き妻しきり
 
 幕末出流天狗党の故事あり
 出流観音への道
 風花舞うよ 卍巴に
 風花のなか 帰る人影

 峠には芭蕉の句碑二つ
 これもまた野の仏

 梅が香に のっと日の出る
   山路かな
 山路きて なにやらゆかし
  すみれ草
 

 

 
 12月号

    道案内
         柿沼道子
 リリリン リリリン
 リンリン リりりン
 わたしの前を鳴きながら
 案内している
 コオロギさん

 風呂場に着いたら
 聞こえてこない
 どこで休んで
 いるのだろうか
 こんどはわたしが
 鳴く番だろうか

 湯船のなjかで
 リリリン リーン
 リーン リリリン
 コオロギさんに
 ありがとう

 11月号

    病室 
           小林守城
入院していた僕の部屋は
八階の一番東側
退院の日の駐車場から
妻と二人で眺めたあそこ
どこも同じ窓の並びの
あの窓の位置の記号
 
荒れてくることば
老いの日常の中で
ぼんやりと明かりが灯り
忘れものがここにあるよと
ときたま暗い自室で
想いだすあの部屋
 
苦痛や不安の時にも
その部屋のことばは
謙虚で寂かだった
後ろ髪を引いてくる
その記号の位置は
文字以上の詩であった

 

 10月号

   旅愁
             宮本千乃
 娘と旅に出た
 久しぶりに青い空を見上げ
 いっしょに輝く海を眺めた
 ともに熱い風に吹かれ
 ともに異国の言葉を聴いた

 娘は将来を語り
 私は思い出を話した
 ずいぶん大人になり
 頼もしくなった
 娘の横顔がそこにあった

 懐かしい話をしながら
 わたしは幼いころの
 横顔を捜していた
 何歳もさかのぼり
 わたしの幼児を捜していた

 
 9 月号

  鉄の文字
        小林守城
無縁という自由
街角や職場にそっと忍び寄る
孤立を恐れるスマホのなか
ときぽり本音 暴虐の言葉が
吹き荒れる

何処へ向かっていくのだろう
願いもしない予兆がする

破たらへ場自由になれる
ARBEIT MACHT FREI
ほんとにほんとう?
アウシュヴィッツの入り口の
粗末な鉄の表示板
今なおそれを盗むやつ

働けば自由になれる
出口なく虐殺された
人とその文字

 
 8 月号

   紫陽花の水揚げ
             岩本久美子
 水無月の庭先には
 淡青色の雨の紫陽花
 艶やかなこの草花は
 水揚げがことのほか
 難しい花材です

 草花は土で育ち
 玄関や床の間の生花は
 水揚げが肝心
 生花は子育ての如しと
 教室では話しています

 切り口に十文字を入れ
 素早く水切りをして
 塩を擦り込み深水に養う
 すると導管がシューと
 目覚めいのちが溢れだす

 やはり地の塩が必要です
 
 

 
7月号 

 あじさい変化  
              大川 勝
磯山神社の紫陽花は
今年もにぎやかだ
茅の輪をくぐり
人形を妻の頭になすり
女夫杉の前でぎこちなく
二人同時に手を合わせた

長椅子に腰を下ろすと
介護の車椅子から
病む妻の話し相手が
にじり寄って来てくれた

聞き取れない言葉
確かにあれは奇異な音声で
わかりあえるのだ
表情が生き返ったように
変化している

ああ たそがれの七変化
これが ご利益というものか

 
 6月号

  椅子
            小林守城
だれがいつ
そのアルミの鈍い銀白の
テーブルセットに座り
木製の椅子に凭れて
したしく談笑するのか

果てしない空から
ただいまと言って
帰ってくるはずの
過去の子供たちや
やがての私たちなのか?

送り人になって久しい
わたしたちの庭
その庭先に置かれた
いつも何かを待っている
空席のオブジェ

 
 5月号

   私の帽子
           柿沼道子
 小さいときからいくつも
 帽子をかぶらせられた
 みんなしあわせ帽だった
 時には不幸という帽子を
 かぶることもあった
 でもすぐ逃げていった
 頭のうすくなったいまは
 いつも帽子をかぶっている

 すべて神仏のなさること
 世間の人事は気にせず
 米寿のわたしは
 元気にモダン帽を
 かぶって行く
          (守城選)

 
 4月号

  福寿草
        岩田 遼
福寿草は
太陽の操り人形
東雲の
ささやかなあかりに
朝寝坊が
黄色の瞳を覚ました

さんさんと輝く
真昼の太陽
雲間の出入りに
一喜一憂

やがて
茜雲は消え
人形劇は終わった
      (守城選)

 
 3月号

   会話
         相場栄子
今日もあなたの
言の葉を聞く
心地よい声帯の響き
音程の高さも適切で
速すぎないテンポ
遅すぎないリズム
短かすぎないフレーズ
長すぎないトーク

言葉の先はわたし
あなたの整った言語が
唇からあふれて
耳元にながれてくる
やがて会話が弾み
ふたりの
透き間をなくしている
        (守城選)

 
 
 2月号


   ゆめ
             田村右品
肩抱き合った
はつこい
あの日の二人
夢のまたゆめ

三五年
亡き妻とのさいげつ
八二歳のわたし
夢の中にいきて
ゆめのなかに
妻とじこめ

もっていくからね
野仏に亡き妻みつけ
双体道祖神に二人
しっかりとじこめて
もっていくからね
  
 2014年

 1月号


   郷愁
               立原 愛 
佳き時代だった
そう思うのは苦労が多く
異世界だったからかも知れない
蒼い空に似合う
笑顔があった

ーねえ
 今晩は日向の匂いのする
 お布団で寝ようね
亡母(はは)の声が聞こえてくる
亡母はいつも
明日への夢を抱かせた
虚像?幻影?いや妖精かも
しっかり生きる
昭和の時代だった
 
 
 2013年

 12月号




 11月号


   白い道
          小林守城
 朝日に輝いて
 夜露は流れ落ちてゆく
 そのように人は
 ついにさみしいのだ
 何処から湧きだし
 追いかけてくるのか
 この逃れるすべのない
 流れいくものへ

 向き合うしかない
 後ろ髪を引かれるよりも
 寂しさの向こうに
 ぬけでていけそうな
 白い道があるはずだ

 朝露の流れゆくまま
 輝いて残るような
 尽きせぬ詩があるはずだ

 

 10月号

 


9月号


 
 
8月号



 
 2013年
7月号


  待っている
           相場栄子

わたしの先に
乙女のような
ときめきがある

春を待っている
庭先の水仙に
土を持ち上げる
激しさがある

待っていることの
滾り 甚だしさが
わたしの体を刺激し
潤い続けている
だからわたしは
あなたを待っている
 
6月号

  たんぽぽ
             岩田 遼
風だけが知っている
空気のにおい
雨だけが覚えている
大地の独り言
太陽はみどり児の
ほほ笑みを見守っている

舗道の隙間を灯している
自我のたんぽぽへ
それぞれが
絆をたしかめている

 

 
5月号


   初恋
         大橋光子
軽快なリズム
バッグを縫う手が
おどっている
どうして そんなに
ミシンが上手なの?
 ほら 終り!
泣きべそ顔のわたしに
君はそっけなく言う

それはわたしの宿題
あっという間に仕上げて
行ってしまった君
 どうして どうして
 私 ミシンが下手なの

小学六年の夏
プール帰りの
暑い日のこと
 
 
4月号


   手紙
          相場栄子

 今年の誕生日で
 六十四歳のあなた
 とつぜん逝った 兄の無念は
 わたしの中で 二十歳のまま
 凍り続けてきました

 あなたの分まで
 生きてきたかどうか
 わたしにも 時は積もって
 いまはようやく
 兄への手紙を
 書けるようになりました
 
3月号


   春が来る
          武田裕也
 コートに身を包み
 見渡す真っ白な世界
 北風が吹き荒れ
 視界も道も奪ってしまう

 だが赤黒く凍えた手を
 降り続く雪空に掲げ
 ぼくは走り出す
 やがて 春は来る
 
 春は何もかも
 運んでくるだろう
 真っ直ぐな明日の道
 青空と地平線

2月号


   もち 
              澤田 萌
かなあみの上 レンジの中
どこでもぷくっとふくらみ
ぷしゅるる しぼんで
小さくなってちゃいろく
あつくなってきた
 上からしょうゆを
 かけましょう
じゅっと音たて おいしそう
もちは私にたべられたいかな
 *じっと見ている萌さんがいます。
   やけるもちの音もいいね。
   やきもちたべすぎないでね。守城                    
 
 2013年
1月号



 
 
 2012年
12月号




 
 
 11月号

 

 
10月号


 

9月号

 

8月号

  しあわせ
           相場栄子

澄んだ瞳 優しい口元
日焼けした顔 短い黒髪
そして長身の後姿

ひとつひとつの
あなたのシルエットを
くっきりと映していたい
焦点を合わせたところで
視ていたい
感じていたい
あなたとの距離
ちょうどいい距離

いまでも
ここに居るだけで
それだけで しあわせ

         守城選
 
 2012年
 7月号


  フクシマ
        小林守城
うそぶいても
すぐ割れてしまう
共生のまちかど

ここもすでに
汚染されている
栃の葉のふるさと

詩のないしずかさ
悲しみをすぎて
いま憤りだけを

おのれ(己)!
虚しさを文明の
釜に焚いて

下を向いてゆけ
どこまでも 
フクシマ

6月号

  著莪の花
         駒橋きみ子
庭一面に著莪の花が
今年も咲いた
たった一日のいのちを散らし
次々と咲いてゆく
けなげな姫ぎみの姿を
私は丁寧にスケッチする

江戸の昔
古河の藩主の土井さまは
降りしきる雪の
その結晶に魅せられて
拡大鏡で見た
すぐ溶けてしまう
雪の美しい姿を
何枚も描き残した

古河はわたしのふる里
著莪もそこから
もらってきたもの
        (守城選)

5月号

   春の雨、東京の雨
             武田裕也
手を伸ばしても
届かない青空を
僕は見上げている
散りゆく桜

強い風 やさしく
ビル群の頬を包む
東京の雨 青春の雨
若葉が芽を出す季節に

何も語らない都会
雨よ どんな意味を
込めているのか?

僕はうとまれて
それでも 手を
伸ばし続ける
         (守城選)

4月号

   ぼたん雪
          金子タケコ
初めて であった
ぼたん雪
ぼっさ ぼっさと
舞い落ちる

どこからくるのか
ぼたん雪
真白き蝶の群がって
舞い降りてくる
四拍子

見渡す限りの銀世界
はるか彼方の目に見えぬ
新しい大地を
覗き見したい

3月号

   命
          駒橋 龍
         (中央小五年)
命は大切だ
なぜって

それは
人に教わるものではない
自分で考え感じること

ぼくの家はいがいと
普通の家だった
ぼくは生まれてよかった

ぼくはこの家に
生まれたかったのだ 

 2月号

   寒の雨
          駒橋きみ子
大寒の日に雨が降りだした
白いものが混じっているのに
なぜか春の息吹がする

薄墨色の空から
絹の糸がすーすーとおりて
からからの土を
真っ黒にぬらしてゆく

みんなちぢかんでいる
見えない小さな生きものや
庭の木や草花の芽も
ぽっと寝息をもらしては
またうとうとと
浅い眠りについたようだ

わたしもそっと深呼吸する
2012年
1月号

   初詣
        相場栄子
娘よ
青空のような
澄んだ心を
失わないでね
年を重ねても

娘よ
太陽にあやかり
暖かい心を
忘れないでね
誰にでも

娘よ
初詣の心の
清らかさを
汚さないでね
大人になっても
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朝の詩3