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2016/
  :
:  玄冬のはなびら  2016/7

  番の庭 2016/5

  一人になって 2016/5

 冬の花 2016/4

 炎のエスキース・残照編  2016/1
 (難民・生死の中の雪ふりしきる)

 2015/
片づけ T U V W 2015/9/30

だんしゃりメモ   2015/9/30

モモンガの話   2015/6/25

初夏の一行詩   2015/6/17

造花の花ことば   2015/6/16

草 取 り  2015/4/8

鷹の爪につかまれて   2015/4/8

下山の時   2015/3/22

絆・腐れ縁   2015/3/22

逆さまだよ   2015/2/8
 2014/11
   病室              小林守城

 入院していた僕の部屋は
 八階の一番東側だった
 退院の日の駐車場から 
 連れ合いと二人で眺めたあそこ
 どこも同じ窓の並びの「八階の一番東側」
 僕のいたあの部屋の窓の位置の
 それが唯一の記号だ
 
 老いの日常に戻ってくると
 関係のなかで荒んでくることば
 健康になったからなのか
 なぜか荒れてくる暗い自室
 そんなとき思い出すあの部屋のなかの
 中空にぼんやりと灯っている明かり
 忘れものがここにあるよと

 苦痛や不安の時にも
 その部屋のことばは謙虚で寂かだった
 後ろ髪を引いてくるように
 あの部屋の明かりは
 その記号の位置は
 文字以上の位相だった
 ことば以上の詩であった
2014/10
 
   
   いのち・ことば        
小林守城

 
無縁になれば自由になれる
 それは心地よいそよ風のように
 投げやりな街角や職場に忍び寄り
 いま孤立を恐れるスマホの中では
 暴虐の言葉が吹きすさぶ
 何処からくるのかヘイトスピーチ
 
   鳥たちの通信や愛の囀りは
   いつも変わりなく正直なのに

  働けば自由になれる
 ALBEIT MACHT FREI
 アウシュビッツの入り口に掲げられた
 粗末な鉄文字の表示板
 逆さづりにされた幻想
 虐殺された人類と言葉
 そしていまそれを盗むネオ・ナチ

   詩は「生死の中の雪」のように
   誠の文字であらねばならぬ

  その文字や言葉を 盗む者よ
 フクシマを経て なお破る者よ
 でたらめなレトリック 逆さまな絆
 心地よく響きそうな言葉なら なんでもいい
 危ないよ いのち・ことば

   花咲くいのちの鎖の中へ
   生きもののことばよ
   なんどでも帰れ

 
 2014.8        いのちの鎖                   守城

   人間であることそれはたたかいだ
  かつて人権教育(同和教育)に
  寝食を忘れて取り組んでいたころ
  肩に力の入ったわたくしの信条だった

  差別への悲しみ 冒涜への怒りを
  おのれに問い やさしさに溶かして
  めざすべき人間の姿を求め
  共に解放されねばならぬ想いをこめ

  アウシュビッツのあと
  アドルノに無念の涙を拭いながら
  それでも詩や祈りを書いて
  人間であることに耐えてきた人はいた

  ヒロシマ・ナガサキ・フクシマのあと
  なお人間であることをかかげ
  地球のいのちの根茎に連なり
  たたかいぬこうとする人はいた

  ねばならぬ なんどでも
  世界に 幻の巷に 順次生
  その悪夢のなかにも なんどでも
  起ちあがらねばならぬ

  花咲くいのちの鎖のなかへ

  アドルノ (1903〜1969) ナチスに迫害されたドイツのユダヤ系思想家・哲学者、フランクフルト大学教授 「アウシュビッツ以後に詩を書くことは野蛮である」という言葉が有名である。
 * 順次生(しょう) 生命の連鎖のことか、親鸞の用語。 
2014・6 
  翔破                      守城 

つばめは今年も帰ってきた
わたしたちの古い軒端にやってきて
二箇所にも巣をこしらえ賑やかに
いっぱい泥の糞をして子育てをしている
遠慮するな
筑波嶺をアルファーに切る
泥つばめ

シギ・チドリは数千キロを翔破し
往来の習慣をなにごとでもなきように
やり遂げるという

わたしたちはあの時から
ムツゴロウやあの渡り鳥たちの訴状を信じたのだ

訴状
地球に住む生きものとして、生存権と
種の存続のため、藤前干潟ゴミ埋め立て
計画の中止を求めます。
申立人  
 ダイシャクシギ オオソリハシシギ
1995.4.22. アースデイ

 2014・5     椅子
               守城
 だれがいつ
 そのアルミの鈍い銀白や
 木製の深い緑の椅子に凭れて
 談笑するのか
 
 空から帰ってきた
 未知の私たち?

 送り人になって久しく
 わたしたちの庭
 その庭先におかれた
 いつか誰かを待っている
 空席のオブジェ 
 2014・4
     蛇
              守城
雪柳の咲く土手の下
石垣のすき間のほうへ
青黒い蛇が動いた
  ここはわしの棲みか
  まだここにいるのだ
嫌われものの逃げの姿勢は
老いてもプロだ

悔恨のようにわたしは
「詩人とはなんなんだ」という
想念に見舞われた
桜前線が北上していった
水仙がさんざめく日

水子のように捨てたはずの
愛娘の目覚まし時計が
危険物置き場で
またかすかになりだした
 2014・3
   遺言
                        守城
生きたあかし
異次元の空へ
響くゆらぎ
オーロラのように
続くものは
言葉しかない

小さないきものの
透き通る黒い瞳から
わたしは
過去へ未来へ
詩の遺言を書く

 
 2014・2  
   鬼子母神
                        守城
欲も得もなく皺のよった
重い象の尻の夕映え
大きな小麦饅頭のような色
まるい柔らかなわれこみ
冬の庭 草木に手入れする
ばあさんの後ろ姿を見つけた

私は聞こえないように
ほくそ笑みながら
ふと少年の枯野に出ていった
深いふるさとの向こうの

なんだ 
鬼子母神のことではないか
夕映えは何処かの国での
朝焼けである


 2014.1
   凧の糸   
                        守城
引きつける
糸があるから
凧は空に
舞うことができる

新しい意図を求めて
子どもらは
風の天地に生きる
生きつづけねばならぬ

(しがらみ)の糸なら
あたらしい透明な凧糸を
みんなの絆(きずな)と
すればいい

さようなら核の柵 
核の風
3.11のフクシマ
もう あのときからは
*今年の年賀状に記載しました。 

 言の葉の鎖 2014/9/29

 古希残照編より(蛇・古希・おいでおいで・職業欄・水のように)
                   2014/4/9

 目覚まし時計鬼子母神  2014/3/20

 古希・残照編へ(校正) 2014/2/14

 炎のエスキース(凧の糸・遺言・白い道・鬼子母神) 2014/1/7
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