詩作ノート 2  (2013〜2002)      へ戻る
詩作品
2013年
 ベーごま  危ないよ

 フクシマ詩篇より(T〜Y)

 蝿とアンパン(補作・フクシマ詩篇より)

 小品ノート
 (綿飴・毛玉・スキップ・旅に出よう・猫の親子・夏の真空・雪になる)

 炎のエスキス残照編(母なるものへ・雪の日は野遊び禁止)

詩作品
2012年

 物忘れ   空の独り言   

 
帰り花・野良着の母  

 三月の雨 三月の雲  立夏となり   昼の罠  

詩作品
2011年

 炎のエスキス残照編 2011

 (人生二毛作・一期一会・守城考・古いピアノ・ランドセル・同級会・風見鶏・道案内・放射能・美しい直線・絆・桜前線・異変・新年・詩人科学者・鉈・モモンガの話)

 同級会      2011・9・23

 牡丹・テッセン 
2011・7・17  初夏の暮景   2011・6・9

 異変夢1234 
2011・5・12    桜前線  2011・4・24 

 野良猫 
 2011・4・19

 太母よ (補作) 2011・1・28
詩作品
2010年
コスモス1・2・3  

夏の花・水神考(カンナと鞦韆)

お尻の話

姫沙羅の花

里山頌歌

太母よ

野辺の落書き

古い池

花言葉
詩作品
2009年
 竿燈  ねぶり流し  収穫

 「孫について」

 孫について 15
 2010.2
 孫について 14 
2009.9
 孫について 13 
2009.7
 孫について 12  
2009.7
 孫について 10.112009.4
詩作品
2008年
 孫について 4.5.6.7.8.9    2008.12
 孫について 1.2.3         
 2008. 5

 
ただいま T
 ただいま U  
2008.4
詩作品
2007年
日記      2007/12/1            胡弓の調べ 2007/11/1

名を呼ぶ
   2007/9/25            みこと頌歌  2007/6/15
花火  2007/6/11
花火T 2007/6/27
花火U 2007/6/27
片付け 2007/4/24
冬の仏桑華 2007/2/14

2006.9
2006.7
2006.6

ふるさと (3)

科学者の緻密な論理のうらから
閉ざされたかなしみが聴こえる

太陽系から銀河系へ
言葉の脳波を放ち 瞬時に遠ざかる
夜のしじまに ゆっくり泳がせる
脳を 宇宙にたっぷりと浸すように 
ああ 辿りつこうとする仮説よ 意思よ

宇宙創成の滓のような背景放射
150億年の壮大な記憶を
否応なく知りたくなったいま
科学者の孤独の同時性
かなしみとしか言いようのない
科学者のジレンマがきこえる


ふるさとへの旅は認識のための
始まったばかりの存在への回帰

絶対者の非存在が問題なのではない
人が宇宙を必然的に知るようになり 
宇宙が偶然にあったということが
私にとって生死をこえて重大なのだ

そのようにしてわたしたちは
21世紀から見透さなければならない
そのようにしてわたしたちは
21世紀から遡らなければならない
            
  ふるさと (
 
1969年3月
おれは暗い青春から復員した
国敗れて 山河あり
延々と生態系が流れるときへ 

2003年晩秋 
ふたたび まぎれもなく
ふるさとの山河は 言葉とともに
国家に先んじていた
  
もうどこへも行くことはない
     
  ふるさと (

1969年 あてのない願書に
それなりの生活がついてきた
生きてればいいよ  それが
ぼくらのそれぞれの別れの言葉であった

ナンセンスと消耗という 
心地よい拒否の口癖に酔っていた
めくるページがついになくなったとき
やむなく自分にその口癖で毒づいた
  
1969年 空白の巨塔に旗が立つ
卑怯でなかったことだけで
おれの青春はいいとするか さらば
妙に居直った北空の色

ボストンバッグの洗濯物
ふるさとの母へのおみやげ
 
2006
4・21
   少年の夕焼け

  校門の近くでぼくはゾウのような
  先生のおしりにさわってしまったぞー

  こらーっておこられたけど
  先生は笑っていた

  みんなとワイワイさわぎながら
  その日のかえり道は 
  大きな夕焼けだった
2006
4・20
  アサギマダラ

  日光湯元から八重山まで
  二千キロを渡って行った
  アサギマダラ

  先史からの呼び声にしたがい
  自滅を急ぐ人間への警告のように
  光の澪
  風にのって
  たしかに渡って行った
  軽合金のような強い羽は
  どこからきたのか
  アサギマダラよ

  飛ぶことを続けよ
  ふるえるいのちの呼び声
  次の世代へ病を癒し
  希望の燐粉を
  空にまいて
2006
2.15
 
 冬の紀元

シベリアの寒いベロが垂れ下がってくると
十数羽のハクチョウが鹿沼までやってきた


氷河期が終わってからもう一万数千年は経っている 遠い紀元を白い羽ばたきの透明な痛みに感じとる

ハクチョウよ この地で初めて私は見た
鹿沼の水はほどよく温んでいるというのか


ここは北限のクスノキも根づくところで
交じり合う温みの生える地方だ


とりわけ奥深い寒気団が垂れてくるなら
その軒先でしばらくはじっと遊べ ハクチョウよ


それぞれの方向と赤い舌鋒をだいたまま
いそがずに旅立てばいい
詩作品 1
水煙 2005/9/14xelo09141.pdf
ホタル見物 2005/6/28 xelo06281.pdf
腐食する水 2005/6/1 xelo0601.pdf
桜の花が終わるとき 2005/4/20 xelo04252.pdf
桜・クラゲ 2005/4/19 xelo04251.pdf
垢すり  2005/3/14 xelo03133.pdf
水車小屋 2005/3/14 xelo03132.pdf
還暦詩編 2004/10/5 xelo126
2004
10・18
   秋の奥に

空が群青に煮詰まってくると
何か勝負しなければと
奥のほうから波立ってくる
目尻を強張らせ背筋を震わせ
足掻いた足が踊りだして 
      
紅葉を駄目押しする冷たい雨が通り過ぎて
もう何も壊れてしまっているんだよと
田舎の野末で半鐘がなり
冬支度を急ぐ木の葉が白く裏返る
      
旅に出ようと奥のほうから
お前は誘ってくるのだが
抜け落ちた心にあてがえる
言の葉がまだあるというのか
      
今を何度も繰り返し遠くまで
ながらえてきた日が落ちて
火焔土器のような縄文の雲
山際にかかるというのか
2004
9・26
    急ぎのモード 

車は見過ごす 目的に合わせた眼の角度
時間に合わせた 急ぎのモード
走りながら不条理をいっぱい 見過ごしてきた
  
轢かれた猫 たしかあの懐かしい人
いい足りずに飲み込んでしまったやさしい言葉
ぶつかりそうだった人の怒鳴り声と睨む視線 
解決しないクリーンセンター事件 鹿沼の泥沼
なんという草花 咲き誇る沿道の歓声
驚いて逃げた 生き物の息遣い
   
見過ごしたものの
声や視線が消えない夜は
25時以降に降りていく
すべり棒や縄梯子を使って
バンジージャンプは身が持たぬから

必ず明日に帰れるしるしを携えて
連れ合いのぶつくさ言う網も携え
ゴミ箱に積もった
黄ばむ言葉を
拾いにいく
2004
8・22
  アスリートの独楽

秋晴れのアテネの空に
敗れたアスリートの
独楽が回る


居場所を失ったアスリートの
悔しさに傷つき
傷つく自分にさらに悔しく
急いで肉体を隠した晴れの舞台

秋晴れのアテネの空で
アスリートの独楽が壊れる

遠心力を閉ざして
狂おしく自転する独楽
移動できない心棒は
真っ青な底から底へ抉りこむ


ただの人へ壊れてゆく自分
人知れず解き放たれた
アスリートの独楽
死ねば死に切り
水際立つアテネの空で
2004
8・20起
    詩作ノート 無明のふるさと
2004
8・7
   彫師と祭り

漆塗りの陽だまりに彫刻屋台
軋みながら社の鳥居をくぐる
日光から流れてきた彫師たちの生業の傷跡
封建の入れ墨を残して
テンツクテンテン テンツクテン

祭りは後からつくられた
若衆の掛け声と競うお囃子
聞き分けていた耳の奥で
すべての音が喧騒に溶け込み
遠い記憶の時を滑り落ちてゆく

文化文政の午後はまぶしかった
ぎこちなく身支度を整えた
鹿沼宿の草分け町人たちが
見栄を張るのも疲れようが
テケテンテンテン テケテンテン

やがて幕末安政のころの祭りか
時代が足早になってきたころ
食い詰めた彫師は女を置いて出て行った
土間の勝手口の方で世迷言する
母に似た女の声が聞こえたのだ
2004
7・30
 引きこもり

手ぬぐいでメダカを掬う
たちまち抜け落ちる水のいのち
幻を大きく育てていくには
コトバをかけて
再び流れに放てばいい

明滅する蛍を追って
とうとう露草とともに
黄緑光の幻を囲った
次の日
少年は籠の底にゴミのような
死骸を見た

意識を点し
ヒトがコトバを発光させるとき
ルチィフェリンを燃やす
蛍の求愛のようだ

幻は囲い込めない
いのちの仕掛けを
うまく開けなかった少年は
向日葵の劇場に暗く晒される
・・・ぼくは汚れた卑怯者だ

あれから少年は寡黙になり
引き籠りの芽を育て続けている
2002
10

大芦川水神考

姉が死に 妹が生まれ
やがて母そのものの死を
確かめなければならなかった川の流れ
・・・水神さまの音が聞こえる
あの音は忌まわしいことばかりではなかった

午前の池で?突きした井守の腹の赤い夏
午後は護岸のべトンのにおいに腹這い
天王橋の欄干をこえて
底なしの淵に少年が飛び込んでいる
唇を紫に染めながら少年たちの喚声は続く
子ども好きな水神さまが手招きをやめる年頃まで
大人になるため河口の都市へ下って行くまで
生意気な少年たちの入水の儀式は続けられる

人を切り 道を断つ
水神さまの崖だから
橋をかけ人は心を洗いにくる
気まぐれな渦を巻き
深い水底の魚や石の姿して
ゆらゆら 今も水神さまは誘ってくる
・・・大きくなったおまえは
  水神さまを
  手籠めにしようなどと思ってはいけない
死んだ母が背後から首筋に
生温かい吐息をかけてくる
橋の上から水底を覗き
山女や緑色に煌めく石を
限りなく欲しいと思いつめた
少年の日に遡上すると
いまも ゆらゆらと
水神さまの音が聞こえる
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